大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

前橋地方裁判所 昭和54年(ワ)134号 判決 1982年12月20日

原告

野口一伊

被告

松井敏

ほか一名

主文

一  被告松井敏は原告に対し、金一二七五万三一三九円及びこれに対する昭和五四年六月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告松井敏に対するその余の請求及び被告新興通信建設株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告松井敏との間生じた分はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告松井の負担とし、原告と被告新興通信建設株式会社との間に生じた分はすべて原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、被告松井敏は金五九五五万六二六四円及びこれに対する昭和五四年六月二四日から、被告新興通信建設株式会社は金五一五五万六二六四円及びこれに対する昭和五四年六月二三日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告松井)

仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

被告松井敏(以下被告松井という。)は、昭和五〇年一二月六日午後五時頃、群馬県吾妻郡高山村大字中山五三二番地先国道一四五号線道路において、普通乗用自動車(群五五て九五五〇号、以下加害車という。)を運転中、同道路を歩いていた原告に後方から追突し、右事故により原告は脳挫傷、頭蓋亀裂骨折、右下腿骨折の傷害を負つた。

2  責任原因

(一) 被告松井の責任

本件事故当時、本件現場は降雨と暗さで前方の道路状況が確認しにくい状態であつたから減速、徐行して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるところ、被告松井は飲酒による影響で前方注視不十分のまま、漫然同一速度で進行した過失により道路左側歩道上を歩行中の原告に衝突させ、本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条による責任がある。

仮に原告が車道端を歩行していたとしても、本件現場は幅員三・五メートルの見通しのよい道路であるから、事前に原告を発見して衝突を回避しうるところ、前同様の過失により本件事故を生じさせたものである。

(二) 被告新興通信建設株式会社の責任

原告は被告新興通信建設株式会社(以下被告会社という。)が電々公社から請負つた高山局の電話自動化に伴なうケーブル設置工事に従事中被災したものである。

原告は野口通信名で請負の形式はとつていたが、被告会社と年間契約をして出来高払の支払を受け、同社のネーム入りの服を着用し、現場監督や安全パトロールも同社が行い、事務所も同社の事務所で、作業日報も毎日同社の工事長に提出し、作業自体も同社とのいわゆる混在作業であつて、一体として同社の指揮監督を受け、使用従属関係に立つものであり、労働契約なき労働関係にあつたものである。

また原告が被告会社との間の労働関係にもとづいて従事していた屋外のケーブル設置工事は道路に接した電柱周辺の作業であつて交通事故に遭遇する危険性を含むものであり、本件事故は右危険性が顕在化したもので作業中の事故といえるから業務遂行性、業務起因性を充足し、被告会社は使用者として本件労働災害により被つた原告の損害を補償する責任がある。

3  損害

(一) 原告は前記の傷害治療のため昭和五〇年一二月六日から昭和五一年八月六日まで中之条町所在の佐藤病院に入院し、同月一二日から昭和五二年四月六日まで同病院に通院し(うち一三日間の再入院あり。)、同年四月一八日から昭和五三年四月一七日まで群馬大学医学部附属病院に通院するなど、入院日数二五八日間、通院二〇か月の加療を要し、昭和五三年四月一七日に症状が固定し、右半身不全麻痺、右半身知覚低下、下肢短縮、足関節屈曲不全、聴力障害により後遺障害併合八級の認定を受けた。

(二) 右受傷による損害は次のとおりである。

(1) 治療費残額 金二万二五一〇円

群馬大学医学部附属病院における治療費残金二万二五一〇円

(2) 入院雑費 金一二万九〇〇〇円

原告は入院中一日当り金五〇〇円の雑費を要し、入院日数二五八日の合計額は金一二万九〇〇〇円である。

(3) 休業損害 金一四九〇万四八〇円

原告は野口通信名で被告会社から出来高払の形で労賃を受領していたが、昭和五〇年度(昭和五〇年一月から同年一二月まで)の原告の出来高は合計金一〇〇四万五九二〇円であり、そこから経費として常傭二名の給与月額金二五万円、臨時雇の給与分金二万円、ガソリン代月額金三万五〇〇〇円、年間合計金三六六万円を控除した残額金六三八万五九二〇円が原告の年間所得であり、月額に換算すると金五三万二一六〇円となるところ、前記受傷のために昭和五〇年一二月六日から同五三年四月一七日までの約二八か月間の休業を余儀なくされたので、これを乗じた金一四九〇万四八〇円の休業損害を被つた。

(4) 後遺障害による逸失利益 金四三二三万四二七四円

原告は後遺障害併合八級の認定を受けており、その労働能力の喪失率は四五パーセントであり、認定時の年齢四四歳に対応する新ホフマン係数一五・〇四五に昭和五〇年度の年間所得金六三八万五九二〇円を乗じた金四三二三万四二七四円が逸失利益となる。

(5) 慰藉料 金八〇〇万円

原告は本件入通院による慰藉料として金三〇〇万円、前記後遺症による慰藉料として金五〇〇万円の合計金八〇〇万円を請求する。

4  損害の填補

原告は昭和五〇年一二月二四日から同五二年五月二日までの間に、被告松井から合計金一八〇万円の支払を受け、また自賠責保険から後遺症分として金四九三万円を受領したので、被告松井から支払を受けた金一八〇万円は休業損害の一部に後遺症分の保険金金四九三万円は後遺障害による逸失利益の損害の一部にそれぞれ充当した。

5  結論

よつて原告は被告松井に対し、前記損害額の合計から右填補分を差引いた金五九五五万六二六四円及びこれに対する不法行為後である昭和五四年六月二四日から、被告会社に対し、右金額から慰藉料金八〇〇万円を控除した金五一五五万六二六四円及びこれに対する支払義務発生後である昭和五四年六月二三日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  被告松井

(一) 請求原因第1項中、原告主張の日時・場所で被告松井の運転する加害車が原告に衝突し、原告が負傷した事実を認め、その余の事実は否認する。

(二) 同第2項(一)の事実のうち、被告松井が飲酒のうえ運転した事実は認め、その余の事実は否認する。

(三) 同第3項(一)の事実のうち、原告が本件事故による受傷のため中之条町所在の佐藤病院に入院したこと及びその期間は認める。その余の事実は不知若しくは争う。

同(二)の事実は否認する。休業損害及び逸失利益の算定の基礎とされる原告の収入は月額金一六万六〇〇〇円程度、年収にして金二〇〇万円程度である。

(四) 同第4項中、被告松井の支払金額、自賠責保険からの支払金額は認める。

2  被告会社

(一) 請求原因第1項中、原告がその主張する現場で本件事故にあつたことは認める。傷害の内容は不知。本件事故発生時刻は午後五時二〇分頃である。

(二) 同第2項(二)のうち、原告が被告会社のケーブル設置工事に従事していたこと、同社のネーム入りの服を着用していたこと、及び作業日報を同社の工事長に提出していたこと(但し、毎日ではない)を認め、その余の事実は否認する。

原告被告会社間の契約関係は、純然たる工事請負契約であつて、原告主張のような労働契約なき労働関係に立つものではない。

(三) 同第3項(一)のうち、佐藤病院への入通院の事実は認め、その余は不知。

同(二)のうち、(3)の原告の昭和五〇年度の出来高が金一〇〇四万五九二〇円であつたことは認め、その余は否認する。休業損害及び逸失利益の算定の基礎とされる原告の年間収入は金二〇〇万円程度と推定される。

(四) 同第4項の事実は知らない。

三  抗弁

1  被告松井

原告は、被告松井の先行車通過後、後続車はないものと考えて、道路左側の駐車車両の蔭から道路を横断しようと車道上に漫然と出て来て衝突したものであり、原告には本件事故発生について重大な過失がある。

2  被告会社

原告は、車道上を歩いていて本件事故に遭遇したものであり、本件事故発生につき過失がある。

四  抗弁に対する答弁

被告らの抗弁事実はいずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一1  原告、被告ら間において、原告主張の日時、場所で被告松井運転の加害車が原告に衝突する事故を起こしたこと(但し、被告会社との関係では、成立に争いない甲第四二号証により右事故の発生時刻を午後五時頃と認める。)は当事者間に争いがない。

2  原告、被告松井間においてその成立に争いなく、被告会社間においては弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は右事故により脳挫傷、頭蓋亀裂骨折、右下腿骨折の傷害を負つたことが認められる。

二1  右一1の事実に成立に争いのない甲第四一ないし四六号証(但し、四二、四五、四六号証については後記認定に反する部分を除く。)、乙第一、第二号証、第四号証、証人大谷賢治の証言及び原、被告(第一、二回)各本人尋問の結果(いずれも後記認定に反する部分を除く。)を総合すれば、本件事故態様に関し、次のような事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場はアスファルト舗装された歩車道の区別のある道路(車道部分の幅員七・三メートル、歩道部分の幅員一・四五メートル)であり、本件事故当時は夕刻で暗く、また小雨模様であつた。

(二)  被告松井は当日友人の結婚式に出席して飲酒し、事故当時においてなお酒気を帯びた状態で加害車を運転し実家(中之条方面)へ帰る途中本件事故現場に差しかかつたが、その際先行する普通乗用車の後方約二〇メートルを時速約五〇キロメートルで追従し、本件事故現場の手前約二三メートルの道路左側に駐車中の車両の右側方を通過するためいつたんセンターラインの右側に出、再び自車を左側車線に戻したところで進行車道上左端から約一・九メートルの地点にいた原告を認め、右転把するとともに急制動の措置を講じたが間に合わず、自車左前部を原告に衝突させた。

(三)  原告は電話ケーブルの設置工事に従事していたものであるが、事故当時は本件事故現場の東側約九メートルの道路南にある被告会社の資材置場に車を置き、被告会社工事事務所に報告のため前記道路を西(中之条方向)に向かつて歩行中後方から加害車に衝突され本件事故に遭つたものである。

以上の事実を認めることができる。

原告本人尋問の結果中には、原告は歩道上を歩行中に本件事故に遭つた旨をいう部分があるが、前掲乙第二号証及び証人大谷賢治の証言を総合すれば、本件事故を捜査した警察においても、衝突現場を前記車道上と認定しており、右証拠により認められるその根拠として考えられた事情、すなわち事故後実施された実況見分において加害車の右車輪と思われるブレーキ痕がなお路面に残されており、その周囲に加害車のガラス片が散乱していたこと、そして衝突地点は右ブレーキ痕に加害車の車幅、車両の衝突部位等を突き合わせて割り出していること、また右見分時歩道上での事故の可能性も考慮して調査したがその痕跡は全くなかつたこと等の諸事情に鑑みれば、前記原告の供述部分は採用し難いものといわざるをえない。

他方、前掲甲第四二号証、第四五号証、第四六号証及び被告本人尋問の結果(第一回)中には、原告が道路脇から衝突直前に車道上に出てきた旨をいう部分が存するが、前認定のとおり、当時原告は被告会社工事事務所に報告に赴く途中であり、しかも原告本人尋問の結果によれば右工事事務所は進行道路左側にあつたから、車道を横切る必要は全くなかつたことが認められること、また原告本人尋問の結果により昭和五四年九月一八日原告の右足を撮影した写真と認められる甲第五号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故は原告の後方からの衝突と認められること等の事情に照らし、右部分は措信できない。

なお、甲第六号証(交通事故目撃証明書)は、その作成の真正に疑問があり、採用できない。

結局本件においては、前認定のとおり原告が前記車道上を中之条方面に向かい歩行中、後方から加害車が衝突したものと認めるべきである。

2  右事実によれば、被告松井は本件事故当時、前認定のような道路状況で進路の安全が確認しにくい状態にあつたから先行車との車間距離を充分とり、減速して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、車間距離を約二〇メートルとつたのみで漫然同一速度で進行した過失により本件事故を生じさせたものであるから、被告松井に過失があることは明らかであるが、原告においても車道上を歩行していた点につき過失があることは否定できないところであり、前認定の諸事情を考慮すると、その過失割合は原告一・五、被告松井八・五と認めるのが相当である。

三  原告は、原告、被告会社間は労働契約なき労働関係にあり、被告会社は使用者として災害補償責任がある旨主張するので、以下判断する。

1  原告が、当時被告会社が電々公社から請負つた高山局の電話自動化に伴なうケーブル設置工事に従事しており、作業中は被告会社のネーム入りの服を着用し、また作業日報を被告会社の工事長に提出していたことは当事者間に争いがない。

2  原告、被告会社間において成立に争いない甲第七ないし第三九号証、丙第一、第二号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、次のような事実を認めることができる。

(一)  被告会社は昭和四八年四月から原告の兄野口一伊を代表とする野口通信工事(法人格はない。――以下、野口通信という。)との間に継続的に電柱、引込線の撤去、新設等電話線路工事の請負契約を結ぶようになつた。右契約は一年毎の契約であり、あらかじめ被告会社から工事名、工事場所等を指示されて作業に従事し、毎月二〇日締切でその間の報酬を受けるというものであり、作業に要する資材は被告会社が支給し、現場の監督も被告会社の工事長が担当し、作業終了毎に被告会社に報告することになつていた。

(二)  右野口通信は、昭和四八年一二月から代表が原告に代り、以後被告会社との関係が終了した昭和五一年三月まで変らず、本件事故当時も原告が代表であつた。そして原告が代表となつて以後、野口通信では原告のほか前記野口佐市、浅見重夫を常傭とし、また臨時に二名程使用することがあり、被告会社からの報酬は野口通信に対するものとして一括して原告に支払われ、そこから原告が二名の常傭及び臨時工らに支給するというものであつた。

なお、作業用資材は被告会社から支給されていたが、作業のためのクレーン、貨物自動車、ケーブルを張るための用具等は野口通信所有のものが使用された。

以上の事実を認めることができる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  労災補償受給権者としての労働者とは使用従属の関係の下で労働する者をいい、形式が請負契約であつてもこれに含まれる場合があることは否定できないところである。

しかして本件の場合前記認定によれば、野口通信の名で行われる請負作業は実質は原告個人ではなく野口通信という集合体として行われ、これに対する報酬も一括して代表である原告に支給されているのであり、しかも前記作業用車両の所有、使用状況からして右報酬自体、単なる労働力の対価たる性質を超えるものと認められるのであつて、これらの事情を総合勘案すると、被告会社に対する関係で原告を労働者と認めるのは困難であるといわざるをえない。

なお、具体的な作業につき原告が被告会社の工事長の監督に服していたことは前認定のとおりであるが、一般に下請契約の場合には、下請が元請の指揮監督に服するのが通常であるといえるから、この一事をもつて労働者性ありと断ずる根拠とはなしえないものと解するのが相当である。

結局、本件において、原告、被告会社間の関係は一般の請負契約関係と目すべきであり、労働者、使用者の関係があると認めることはできず、従つてこれを前提とする被告会社に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく失当といわざるをえない。

四  前掲甲第一号証、原告、被告松井間において成立に争いなく、弁論の全趣旨により被告会社間において真正に成立したと認められる甲第二号証および原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は前記傷害治療のため佐藤医院に昭和五〇年一二月六日から昭和五一年八月六日まで(二四五日間)入院し、同月一二日から昭和五二年四月六日まで(実日数三二日)通院し(但し、この間一三日間は再入院)、同年四月一八日から昭和五三年四月一七日まで(実日数二二日)群馬大学医学部附属病院に通院し、同月一七日症状固定の診断を受け、右半身不全麻痺、右半身知覚低下、下肢短縮、右足関節運動障害、左聴力障害により後遺障害併合八級の認定を受けたことが認められる(原告が佐藤病院において治療を受けたことは当事者間に争いがない。)。右認定を左右するに足りる証拠はない。

五  よつて損害額につき判断する。

1  治療費 金二万二五一〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第三号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は群馬大学医学部附属病院における治療費残として頭書金額の損害を受けたことが認められる。

2  入院雑費 金一二万九〇〇〇円

原告は入院中入院に伴なう雑費として一日当り平均五〇〇円を要したことが推認されるから、前記入院日数合計二五八日間の総入院雑費は合計金一二万九〇〇〇円となる。

3  休業損害 金四七二万九二四〇円

(一)  原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故後前記後遺症固定の日である昭和五三年四月一七日まで(八六三日間)本件受傷により、稼働して収入をあげることができなかつたことが認められる。

(二)  そして前掲丙第一、第二号証、成立に争いのない丙第三号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は当時常傭二名、臨時二名を使つて被告会社の下請としてケーブル設置工事に従事しており、その出来高は昭和四八年四月から昭和四九年三月まで約六七五万円、昭和四九年四月から昭和五〇年三月まで約一〇〇三万円であつたこと、経費は右出来高のおよそ半分程度であり、その残額から雇人、臨時工に対する給与を支払い、残りを原告が取得していたものであるが、右原告の取得割合は本件全証拠によつても必ずしも明らかでないこと、しかし、昭和五〇年度の原告の税務署に対する確定申告書によれば、原告の所得金額は一九〇万九〇二一円であることが認められる。

(三)  右事実並びに原告本人尋問の結果により認められる原告の野口通信における立場等を総合勘案すると、本件事故当時における原告の収入は年間約二〇〇万円(一日当り五四八〇円)と認めるのが相当であり、従つて本件事故により前記の期間就業できなかつたことによる休業損害としては、左記のとおり金四七二万九二四〇円になる。

5,480×863=4,729,240

4  後遺障害逸失利益 金一三五四万五九〇円

原告が昭和五三年四月一七日後遺障害併合八級の認定を受けたことは前認定のとおりであるところ、前掲甲第三号証によれば、原告は右症状固定時満四四歳であり、その後二三年間は就労可能であると認められ、その間に四五パーセントの労働能力を喪失したと認めるのが相当であるから、右逸失利益の現価は次の算式により金一三五四万五九〇円となる。

200万×0.45×15.0451(ホフマン係数23年)=1,354万0,590

5  慰藉料 金四五〇万円

本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容、程度、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故により原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては金四五〇万円をもつて相当と認める。

以上の損害合計は金二二九二万一三四〇円となる。

六  前記のとおり本件事故発生については原告の過失も競合しており、その過失割合は一・五割であるから、これを右損害から差引くと金一九四八万三一三九円となる。

七  原告、被告松井間において、原告が被告松井及び自賠責保険から合計金六七三万円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、これを右損害額から控除すると、その残額は金一二七五万三一三九円となる。

八  以上によれば、原告の本訴請求は被告松井に対し、金一二七五万三一三九円及びこれに対する本件損害発生後である昭和五四年六月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、被告松井に対するその余の請求及び被告会社に対する請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言の申立については相当でないから却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 前島勝三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例